Q&A

疑問解決コーナー

水源の富栄養化が原因で藻類が繁殖し、ろ過障害や異臭味の発生を引き起こすと聞きましたが、富栄養化とその水道に与える影響、対策等について教えてください。  (Ms. N.W. タイ)
A-1

富栄養化

水深の浅い湖沼、ほとんど流れない河川や湾などの閉鎖的水域で、生活排水、工場廃水、農地への施肥等の流入で汚染が進み、窒素、リンの栄養塩類が過剰に含まれている状態を富栄養化といいます。 窒素とリンは植物生育の必須要素で、更に十分な日光がある場合、光合成が促進されて藻類の大繁殖が起り、赤潮やアオコを引き起こします。 その大量の藻類が夜間には酸素を消費し、また死滅して水底に沈殿して分解されるとき、酸素を消費するため、水中の溶存酸素量が欠乏して魚介類への影響が出ます。

A-2

水源の富栄養化が水道に与える影響

水道水源の湖沼等が富栄養化し、藻類が繁殖した場合、 水道に及ぼす藻類の主な障害としては①異臭味障害、②凝集沈殿処理障害、③ろ過閉塞、④漏出障害があげられます。
更に水源底層部の鉄、マンガン濃度の上昇もあります。
水道協会「浄水処理維持管理における生物障害の評価ガイドライン作成のための研究会が平成13年~14年に実施した「全国生物障害事例調査」によると、

① 異臭味障害:報告された188事例のうち93事例は異臭味障害であった。臭気の種類ではかび臭が圧倒的に多く82%、次に生ぐさ臭13%であった。原因藻類ではアナベナ(Anabaena)による事例が最も多く、次にフォルミジウム(Phormidium)、オシラトリア(Oscillatoria)、ウログレナ(Uroglena)、放線菌の順であった。

② 凝集沈殿処理障害:上記調査で15事例報告された。原因生物は珪藻類がもっとも多く、次に藍藻類であった。

③ ろ過閉塞障害:上記調査では48事例報告された。原因生物は圧倒的に珪藻類が多く93%を占種類別ではシネドラ(Synedra)が主な原因生物であった。

④ 漏出障害:上記調査では21例報告された。原因生物を類別でみると珪藻類が約半数、次に緑藻類、藍藻類の順であり、種類別ではキクロテラ (Cyclotella)による事例が7例と多く、次いでミクロキスティス (Microcystis) とピコプランクトンがそれぞれ3例報告された。鉄・マンガン濃度の上昇については、大量の藻類が死滅して沈殿し分解される時に酸素を消費して、底層では嫌気状態になり、底泥の鉄、マンガンが溶出します。 その水を取水した場合、水道原水中の鉄、マンガン濃度が高くなり、洗濯物の着色や味の低下の原因となる場合があります。

A-3 対策

1) 富栄養化を防ぐ対策

*汚染水の流入を防ぐ
・水源に関係する機関、グループなど関係者が集まって対策会議の設立。
・自治体による富栄養化防止条例の制定と富栄養化防止基本計画の策定(窒素、リンの削減目標を設定)。
・下水道整備や合併浄化槽の設置を促進し、生活排水の水源への流入を防ぐ、または減少させる。
・環境に優しい生活スタイルの促進。
・工場廃水処理施設の設置促進。
・家畜の排水処理の設置促進。

*底泥に溜まっている栄養塩類の溶出の防止。
・底泥の浚渫など。

2)富栄養化で繁殖した藻類の水源での抑制対策

*薬剤散布
・薬剤としては硫酸銅、塩素剤があるが、特に硫酸銅が有効。しかし農業や魚への影響が出ないように十分に注意する必要がある。

*湖沼水の強制循環
・間欠式空気揚水筒方式と酸気管方式等があり湖沼水を強制的に循環させて、表層の藻類を低層に拡散させるとともに、底層に酸素を供給して、鉄、マンガンなどの溶出を抑える。

*湖面遮光
・遮光版等を湖面の一部に浮かべて日光を遮り、その下部に藻類を移動させて繁殖を抑制する。

3)藻類の水源から原水への混入を減少させる対策

*取水停止または減量

*他の水源との混合

*選択取水
・複数の層に取水口を設けて、藻類等問題の少ない層から取水するなど、各層の水質を見ながら選択する。

4)浄水処理による藻類の除去

*マイクロストレーナー
・ろ過装置の一種で藻類を除去する。

*エアレーション
・原水に空気を吹き込んで異臭味原因物質を大気中に放出させる。

*浮上分離
・藻類は一般的に沈殿しにくいため、フロックに気泡をつけて浮上分離する。

*粉末活性炭処理
・異臭味原因物質を吸着させる。

*前塩素の停止
・藻類の発生初期、藻類体内に異臭味原因物質が存在するときに前塩素処理をすると、異臭味原因物質は体外に放出される。この場合は前塩素を中止して異臭味原因物質を内包したまま藻類を沈殿させて除去する。 しかし、繁殖が衰える時期は、異臭味原因物質は藻類の体外に排出されるため、その場合は活性炭で吸着除去する。

*凝集処理の改善
・凝集剤の注入率の増強または凝集剤の変更
・凝集補助剤の利用
・凝集時pH値低減対策
・二段凝集処理

*ろ過処理対策
・ろ過池洗浄頻度の変更:通常より短い周期で、少ない洗浄水量で洗浄し、ろ過閉塞を回避。この場合、できるだけ長く表面洗浄する。
・逆洗速度の変更:一時的に逆洗速度を上げて、砂表面に異常堆積したフロックを除去する。

5)浄水場内で繁殖した藻類対策

*低濃度または間欠的前塩素の注入

*沈殿池、ろ過池の遮光
・覆蓋、遮光シート、緑色フィルターなどの使用

6)高度処理導入

*生物処理
充填材に微生物膜を増殖させて原水と接触させる。アンモニア性窒素の除去、一般細菌、マンガンの低減。異臭味除去等に効果がある。

*オゾン処理
 強い参加力で異臭味物質の低減に効果。ただし、副生成物を生成するので後段に粒状活性炭処理を設ける。

*粒状活性炭処理
 活性炭の吸着能力で異臭味物質を吸着除去。装置として固定層と流動層がある。粒状活性炭は不純物吸着量に限界があり、交換する必要がある。
微生物を活性炭に増殖させた生物粒状活
性炭処理は微生物が吸着した有機物質を分解するので、かなり長期に吸着能力が持続する。但し、前段の塩素注入は生物を殺すのでできない。なお、高度処理では上記処理方法を複数併用する場合が多い。

*A-2、A-3は「生物障害をおこさないための浄水処理の手引(水道協会、平成18年3月)」より引用または要約しました。 文責 山本敬子 (WaQuAC-NET事務局)